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北アルプス国際芸術祭2024 自然と人とアートの力で、土地の持つ魅力を発信する

北アルプス国際芸術祭2024 自然と人とアートの力で、土地の持つ魅力を発信する

3年に1度、トリエンナーレ形式で開催されている「北アルプス国際芸術祭」。3回目を迎える「北アルプス国際芸術祭2024」が、2024(令和6)年9月13日~11月4日に行われます。
6月1日、開幕100日前イベントが長野県立美術館で開かれました。その様子と、総合ディレクターの北川フラムさんへのインタビューを紹介します。

写真:北アルプス国際芸術祭2024開幕100日前イベントの様子

秋の本番に向けて、ついにカウントダウン開始!

イベントは関係者を中心におよそ110人が出席しました。実行委員長を務める牛越徹大町市長は、コロナ禍での開催となった前回(2020年~21年)を「アーティストの皆さんの工夫と努力によって素晴らしい制作が行われた。地域に明るい一筋の希望の光を与えてくれた」と振り返り、今回について「大町の魅力を質の高いアートと共に、歴史、雄大な自然を全身で体感してもらいたい」と力を込めました。

関昇一郎長野県副知事は、「地域とアートが融合する催しとして、一過性で終わるのではなく、こうして続いていることは大町の皆さんのおかげでもある」と話し、今回、県との新たな取り組みとして、障がいのある人の芸術作品を展示する「ザワメキアート展」を10月12日~11月4日、大町市で開催することを発表しました。

  • 写真:北アルプス国際芸術祭2024牛越徹大町市長
  • 写真:北アルプス国際芸術祭2024関昇一郎長野県副知事

続いて北川さんが登壇。この日の会場、長野県立美術館は、善光寺の東側に位置する高台にあります。来館の際に、善光寺の本堂の屋根が見えたことに触れ、「小学校5年生の時、修学旅行で初めて善光寺に来て、その後も何度も見ているのに、今日の眺めにはびっくりした」と話し始め、会場は和やかな雰囲気に包まれました。

写真:北アルプス国際芸術祭2024北川フラムさん

そして、コンセプトとメインビジュアルを紹介しました。
コンセプトは、「水・木・土・空~土地は気配であり、透明度であり、重さなのだ~」。
「この土地がもともと持っている力をベースに置いて進めようというところが出発点にある」と話す北川さん。田畑の横を流れる小川の水、糸魚川静岡構造線という日本列島を縦に割る断層帯の上にある地形、東と西が混じり合う植生、「塩の道」として物だけではなく文化的な交流を深める場にもなっていたことなどに触れながら、土地の特徴を語りました。

写真:北アルプス国際芸術祭2024

ビジュアルディレクターを務めるデザイナーの皆川明さんが手がけた、今回のメインビジュアルは中綱湖がモチーフ。水が山々に染み渡り、やがて川となり湖へと流れていく様子が青色の線と点で描かれています。「いろいろな人がワークショップなどにも活用できるようなデザインにした」と北川さん。

イベントに駆け付けた、「世界の優れた9人のライトアーティスト」に選ばれたアーティスト・千田泰広さんと、東京とイタリアを拠点に活動するアーティスト・宮山香里さんもマイクを手にして、意気込みを語りました。

  • 写真:北アルプス国際芸術祭2024千田泰広さん
  • 写真:北アルプス国際芸術祭2024宮山香里さん

今回は、大町市の5つのエリアに、11の国・地域から36組のアーティストが参加します。
「世界各地のアーティストたちは土地の力と記憶に寄り添い、切れ味の鋭い作品を呈示してくれるでしょう」という北川さんのコメントの通り、この地でどのような作品が生まれるのか、今からとても楽しみです。

  • 写真:北アルプス国際芸術祭2024鈴木理策《水鏡》北アルプス国際芸術祭2024 参考作品
  • 写真:北アルプス国際芸術祭2024ソ・ミンジョン《黒い跡》北アルプス国際芸術祭2024 作品プラン
  • 写真:北アルプス国際芸術祭2024ルデル・モー[南アフリカ](タイトル未定)北アルプス国際芸術祭2024作品プラン
  • 写真:北アルプス国際芸術祭2024ヨウ・ウェンフー(タイトル未定)北アルプス国際芸術祭2024 作品プラン

ひたむきにやり続けるアーティストが、地域にとってかけがえのない存在に

イベント後半は、「アートは人と場をつなぐ 長野という土地で~北アルプス国際芸術祭、そして長野でのアートによる地域づくりの可能性について語り合う~」と題したトークイベントが行われました。
ゲストに迎えた長野県文化振興事業団理事長の吉本光宏さん、司会を務める「ISHIKAWA地域文化企画室」の石川利江さん、北川さんの3人が登壇しました。

写真:北アルプス国際芸術祭2024

北川さんが総合ディレクターを務める、地域芸術祭のパイオニア的存在「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。吉本さんが印象に残っている芸術祭の作品として挙げたのは、その第1回となる2000(平成12)年に、北山善夫さんが発表した大型インスタレーション《死者へ、生者へ》。1996(平成8)年に閉校した、旧中里村(現・十日町市)の村立清津峡小学校土倉分校に3カ月以上こもって完成させた作品です。

写真:大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ北山善夫《死者へ、生者へ》大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2000 Photo by ANZAÏ

吉本さん
「作品自体も素晴らしいのですが、廃校に行った、それを体験した、ということが強烈に残っています。現代美術を観に行くというよりは、“そういう場所”に連れていかれたという印象です」

北川さん
「土倉分校がある場所は、過去には8メートルを超える積雪があったほどの豪雪地帯。土倉の集落や、大町でいうと七倉ダムなどは、本当に面白くて、ホワイトキューブではできないようなものが生まれる場所です。何か面白いところに行って、面白いことをやりたいというアーティストにとっては、これ以上の環境はありません。
北山さんは、ほぼ一冬を廃校で過ごしたそうです。自炊しながら、学校に残されていたスナップ写真や文集を見つけて、その言葉を黒板に書き出したり、写真を貼ったり。そういうことを面白がれるアーティストなんですよね」

一方で、滞在型で制作するアーティストは、地域の人々に受け入れてもらうまでに時間がかかる、ということもあります。実際に、石川さんからは越後妻有に参加したアーティストの「最初は冷たかったおじいちゃんやおばあちゃんが、差し入れをしてくれるようになって、最後に作品を運び出すときは手伝ってくれて、帰るときには泣いてくれた」というエピソードも語られました。

石川さん
「アーティストは発信力を持っているので、芸術祭が終わってからも“地域の応援団”として活動してくれる面があると思います。アーティストにとっても、地域の中でさまざまなものと触れ合うのは、大きな意味があるんじゃないでしょうか」

写真:北アルプス国際芸術祭2024「ISHIKAWA地域文化企画室」石川利江さん

北川さん
「アーティストは、作品を作っているときの姿が良い。僕は、それにだまされちゃいけないという話もするんですが(笑)。『このくらいでいいか』というところで止めずに、黙々と懸命にやり続ける姿に、おじいちゃんもおばあちゃんも共感してくれるんですね。今は、情報量が多くて、色鮮やかで、スピードがあるものがもてはやされるけど、僕は不毛なことをやっているアーティストが好きです」

吉本さん
「現代美術=よく分からないもの、というイメージを持つ人もまだまだいます。『そんな得体のしれないものを先祖代々受け継いできた大事な所に置くのはどういうことだ』という話もあったと聞きました。だからこそ一見、よく分からないことをやり続けて、作品を生み出すアーティストというのは、かけがえのない存在ですよね」

写真:北アルプス国際芸術祭2024長野県文化振興事業団理事長・吉本光宏さん

石川さん
「アーティストはちょっと変というか、変わっていると言われることも多いですが、でもアーティストに救われる人もたくさんいる。計算できない力を持っていると思います」

文化は関わり合って、動いていくことで発展する

今年は、北川さんが総合ディレクターを務める芸術祭が立て続けに開催されます。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(7月13日~11月10日)、北アルプス国際芸術祭(9月13日~11月4日)、「清流の国 文化探訪『南飛騨Art Discovery』」(10月19日~11月24日)と、開催が重なる時期も。北川さん曰く「日本最深部縦断ツアー」、いずれも交通の便が良いとは言えなような土地で行われる芸術祭です。そこには苦労して続けてきた暮らしがあり、日本を見つめ直すことにもつながると言います。

北川さん
「僕が総合ディレクターを務める『奥能登国際芸術祭』の会場は、能登半島地震で大きな被害が出た石川県珠洲市です。ここは20年ほど前にのと鉄道が廃止になって、金沢から行くのにも2時間半くらいかかる。そういう土地とかかわりを持ち、いろいろと進めていくうちに、ガイドブックを作った最終の段階で『最涯(さいはて)の芸術祭』と言いたくなった。そのときに初めて『最涯』という言葉を使わせてほしいと伝えて、いいって話になったんですが、関係性ができる前だったら難しかったかもしれませんね」

吉本さん
「今はインターネットやAIなど、情報に触れることがイージーな社会です。でも時間をかけて、身体をその場所に持ってきたからこそ、出会えるものがあるし、関係も生まれる。大都市に住んでいる人には特に足を運んでほしいです」

北川さん
「そういう意味で、企画概要説明で紹介しましたが、僕は芸術祭で、大町がもともと持っている、土地の豊かさをもっと伝えていきたい。でも、住んでいる人たちは、自分たちの土地のことを良いって言わないんですよね。もっと言ったほうがいいのに。
お客さんを迎える側の、歓待の仕方はとても大切です。地元の皆さんが、喜んで迎えてくれて、お客さんが『良いところだね』と言ってくれるところから、いろいろな関係が始まると思っています」

写真:北アルプス国際芸術祭2024北川フラムさん

吉本さん
「芸術祭は、地域活性化や、昨今はインバウンド需要もあって経済的効果という側面で語られることが多い。それも大切ですが、一番は地域の価値が再発見されて、そこに住んで何かやろうという気にさせる力だと思います。そこが都市型芸術祭とは違うところだし、長期的にみても大きな価値になります」

石川さん
「北アルプス国際芸術祭は県下でも“断トツ”の規模。ただ、県内各地で芸術祭や、文化活動をしている人たちの中ではあまり肯定的ではない見方もあります。でも、実際に観たことがないという人も多くて、それはすごくもったいない。文化は関わり合って、動いていくことで発展していきます。長野県は博物館・美術館の数が日本一多い(令和3年度社会教育調査)ですから、芸術祭を学芸員が案内する企画など、小さなことからでもいいので、一緒に盛り上げていきたいですね」

写真:北アルプス国際芸術祭2024

つながりを増やして、土地の持つ魅力を多角的に発信

イベントを終えた北川さんに、イベントの振り返りと、北アルプス国際芸術祭に向けての思いをあらためて伺いました。

今回の見どころについて教えてください。

北川さん
「北山さんの作品《死者へ、生者へ》のような、見た瞬間『うわっ』という感じよりは、透明感のある作品が多くなるような気がしています。
今、思い付くまま挙げると、今まで市街地で制作していたコタケマンが今回どういう感じになるのかとか、松本で活動している『Torus Vil.』がどんな音を出すのかとか、興味があります。あと、ヨウ・ウェンフーさんが地域の竹を使って公民館を覆う大規模なインスタレーションを見せるというのも楽しみですね」

開幕まで100日を切り、制作もこれから本格化していきますね。

北川さん
「どうなるか分からないもののほうが期待が持てます。建築と違って、アートの面白さは作っていくうちに最初の設計図と変わっていくところにある。アーティストの性格にもよりますが、その土地の皆さんがしゃべっていること、アーティストが持っている知識や知恵、互いの交流がその変化に影響することもあります」

大町では3回目の開催となりますが、印象はどうですか?

北川さん
「こういうイベントの時は、積極的に出てきてくれる人と、そうではない人がいますよね。積極的に出てきてくれる人のことは、僕たちも見えるけど、出てきてくれない人のことはまだよく分からない。でも出てきてくれない人たちも、芸術祭をポジティブに捉えてくれているからこそ、こうして3回目が開催できると思っています。そういう、まだ出てきてくれない人たちともっとつながっていきたいですね」

写真:北アルプス国際芸術祭2024

「ザワメキアート展」など、あらたな連携も始まります。

北川さん
「石川さんもおっしゃっていましたが、長野県は各地で芸術活動をしている人やグループが多いし、質も高い。ですが、皆で一緒に取り組む機会はちょっと少ない気がします。その辺りは、盆地ごとに文化が発展してきたことが影響しているのかもしれません」

先ほども、関わり合うことで文化が発展する、という話がありました。

北川さん
「県内各地の学芸員が芸術祭を観に来てくれて、案内役をやってくれるというのも良いアイデアです。せっかくだから、皆で一緒にやっていければいいですね」

大町市という土地が持つ力と、そこで暮らす人々と、制作するアーティストとの交わりから生まれる唯一無二のアート作品。作品そのものだけではなく、作品が置かれた空間、そこへ至るまでの道のり、その途中で目にする自然、出会う人々。その全てがアートで、実際に訪れた人だけが体感できるものなのかもしれません。
今後、アーティストが続々と大町入りして、制作を開始します。SNSなどで発信される制作の様子を眺めながら、開幕を心待ちにしたいと思います。

取材・文:山口敦子(タナカラ)
撮影:河谷俊輔

北アルプス国際芸術祭2024
北アルプス国際芸術祭2024

2024年9月13日(金)~11月4日(月)
詳しいスケジュールは公式サイトをご確認ください。

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