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リニューアルした長野県信濃美術館 東山魁夷館へ出かけよう

リニューアルした長野県信濃美術館 東山魁夷館へ出かけよう

リニューアルした「東山魁夷館」へ出かけてみよう!魁夷さんが教えてくれる信州の魅力を堪能しよう!

長野市の善光寺のお隣にある、長野県信濃美術館 東山魁夷館。本館は2021年春のオープンを目指して建設中ですが、東山魁夷館は2019年秋に一足早くリニューアルを終え、新たなスタートを切りました。2020年度は開館から30年。どんな展覧会が待っているでしょう?

長野県信濃美術館 東山魁夷館リニューアルオープンに合わせてつくられたパンフレットがかっこいい

そこで改めて、日本画の大家・東山魁夷と長野県のつながり、その作品の楽しみ方などを紹介します。ナビゲーターを務めてくださったのは館長の松本透さん、学芸員の松浦千栄子さんです。

長野県信濃美術館 東山魁夷館東山魁夷館外観

東山魁夷と長野県の関係

東山魁夷(1908~1999)は山や湖、川、渓谷など四季折々によって変化する自然の魅力を題材にした風景を描いた画家です。そのどれもが静謐(ひつ)で、絵の前に立っていると幻想的で神々しい世界に引き込まれていくような感覚になります。横浜に生まれ、神戸で少年時代を過ごした東山は、東京美術学校を経て、のちに日展で特選受賞、日本芸術院賞受賞、日本芸術院会員、文化勲章受章など華麗なる作家人生を積み重ねてきました。そんな東山魁夷の名を冠したギャラリーが、なぜ長野県にあるのでしょうか。それは信州の自然と人に関係があるのです。

松浦さん
「東山さんは山がとてもお好きでした。横浜生まれ神戸育ちですから海が身近だったはずですが、中学時代には六甲の裏山を一人で散策するなど、どうやら山に惹かれていたようです。東京美術学校、今の東京藝術大学の1年生の時に、お兄さんやその友達と、岐阜県中津川市・越県合併した旧山口村を始まりに、木曽川沿いから御嶽山に10日間の登山に出かけました。天気がものすごく悪い日があって、どうしようもなくなって農家の軒先でテントを張らせてほしいとお願いしたところ、そこのおばあさんがとても優しく、お座敷に上げてお茶でもてなしてくださったとか。雨が上がった後に、その地に暮らす人びとと接する中で、初めての本格的な登山で見た山の風景にいたく感動したそうです。それがきっかけになり山を描き始め、長野県の風景を”私の作品を育ててくれた故郷”としてくださっています。それらの縁があって、長野県に作品を寄贈したいとの申し入れがご本人からあったんです」

長野県信濃美術館 東山魁夷館松浦千栄子さん
  • 長野県信濃美術館 東山魁夷館
  • 長野県信濃美術館 東山魁夷館

本制作(主に展覧会への出品を前提に描かれた作品のこと。東山魁夷は習作・スケッチで構想を練り、本制作へ取り組んでいた)、習作、スケッチ、下図など500余点の寄贈を受け、1990年に東山魁夷館は開館しました。そして今では970余点もの所蔵作品(うち本制作34点)があります。

松浦さん
「東山さんはとても几帳面で、スケッチや下図も綿密に描かれていて、そこから制作に向かう姿勢が伝わってきます。それらを見ていただくと、完成作品を見るだけではわからない面白さがあり、ひと味違った鑑賞体験になると思います」

松本さん
「普通、本制作に至る設計図でもある下図、スケッチなどは作家が亡くなると散逸してしまうんです。そうすると我々は研究もできない。ところが当館には900点以上もある。東山さんの場合は、作品は必ずどこか具体的な場所、自然や景色との出会いから始まります。その出会いのスケッチが全部残っていることは、ほかの作家ではないことかもしれません。例えば≪道≫(1950)という東山魁夷らしい作風が生まれた有名な作品がありますが、スケッチ自体は戦前の1930年代のもの。それが20年近くかかって本制作になる。東山さんの場合はそういうことがよく起こります。具体的な自然との出会いや感動が練りに練られ、時間をかけて作品化される。当館では本制作とそれらを組み合わせて、学芸員が工夫しながら年間6回、すべての作品を入れ替えて展覧会を行なっています。この絵のきっかけや背景はなんだったのか、どういう体験があったのか、いろんな発見があるのはお客様にも興味深いのではないでしょうか」

長野県信濃美術館 東山魁夷館館長・松本透さん
  • 長野県信濃美術館 東山魁夷館
  • 長野県信濃美術館 東山魁夷館

東山魁夷の目線、心の動きを実際の場所で想像する体験が面白い

「私の作品を育ててくれた故郷」。東山魁夷は長野県のことをそんなふうに思ってくれています。蓼科高原・御射鹿池をモチーフにした有名な≪緑響く≫(1982)をはじめとして、飯山の希望湖、戸隠、野尻湖などの北信地域、南に行くと山梨県や岐阜県境の山々などをたくさん描いています。

松浦さん
「一昨年、東山さんの取材地をいくつか実際に巡ってみたんです。風景をそのまま描いているわけではないので、ここ、というポイントを見つけるのは難しいのですが、それでもよくモチーフにされた湖を一周歩いてみると、やはり絵になるポイントが押さえられているんです」

松本さん
「そう、特定のこの木、この池ということだけではなく、その土地土地の空気や光を感じる体験は鑑賞を豊かにする面白さがあると思います。東山さんがこれだけ取材した場所は長野県のほかにないでしょう。作品を見つつその取材地を巡っていく、あるいは作家にとっては芸術の故郷だと言わしめたものが何なのか、そんなことを考える際にも美術館に足を運んでいただければと思います」

そんな自然と出会える鑑賞体験に似た機会が得られるのが東山魁夷館なのです。2019年のリニューアルも、そこに一つの力点を置いたものでした。

松本さん
「東山魁夷館の一番の特徴は画家の名前を冠した個人ギャラリーだということ。その場合、作風、面持ち、雰囲気に合わせ、天井の高さや、床を木にするか石にするかといった内装面など、その作家の作品を鑑賞するためのベストな空間をつくることを、設計に当たった谷口吉生先生は目指しています。つまり東山魁夷館は東山魁夷の作品のために建物や水庭も含めた鑑賞環境をしつらえています。そして鑑賞環境は、もう少し広げていけば、まさに東山魁夷が自分の芸術の故郷と言った信州の自然になるわけです。画家が言う故郷でそれが生み出した作品を見る、ほかの作家ではちょっと考えられない機会を、ここでは提供できているのではないかと思います。

今回のリニューアルは、30年も経った建物の経年劣化のためやらなければいけないメンテナンスと、学芸員や運営のサイドから作品の出し入れを考えたバックヤードの新設などが主なポイントでした。お客様に向けては、2階のギャラリーでご鑑賞いただいた後にもう一度出発点に戻る動線だったものを、見終わったところで1階の水庭の見えるラウンジに下りてこられるエレベーターを設置することで、鑑賞の感動や余韻にひたっていただくのに最適な環境が整ったと思います。東山魁夷さんの山、湖、森の絵を見た後で、広い水庭とラウンジ、そして遠くに見える山並みを望みながら、ぜいたくな時間を味わってください」

長野県信濃美術館 東山魁夷館
長野県信濃美術館 東山魁夷館

建物は、東山魁夷の作品の理解者で、懇意にしていた建築家・谷口吉生の設計。ラウンジの目の前に広がる水庭は昼間はキラキラと輝き、夕暮れ時には夕焼けや濃紺を映し出す水面がなんとも美しく、のんびりここで余韻を楽しむのは、とてもぜいたくなひと時と言えます。そして開館から30年を迎えた東山魁夷館はどんな企画で私たちを待ってくれているか楽しみです。

コラム・美術館に親しみが湧く「信美休館通信」

  • 柄澤志保さん

    長野県信濃美術館では、休館中の情報発信の一環で、「信美休館通信」を発行しています。2018年10月の0号を皮切りに、まもなく発行分で4号になります。工事の進捗具合、館の催しや出前講座やワークショップ情報、学芸員の素顔がうかがえる連載「学芸員の本棚」「美術館の仕事」などを掲載しています。長野県信濃美術館 東山魁夷館はもちろん県内の美術館で配布中。「信美休館通信」を読んで、美術館にゴー!
    写真は編集を担当している広報・マーケティング室の柄澤志保さん。

長野県信濃美術館 東山魁夷館

人物・館内撮影:清水隆史
取材・文:いまいこういち(サイト・ディレクター)

長野県信濃美術館 東山魁夷館

長野県信濃美術館 東山魁夷館
長野市箱清水1-4-4(城山公園内)

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