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秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕

長野県の北西部に位置する大町市。白馬岳、鹿島槍、立山、槍ヶ岳、穂高岳などの名峰が連なる北アルプスを背後に臨むこの地で、『北アルプス国際芸術祭2020-2021』が令和3(2021)年10月2日に開幕しました。平成29(2017)年に続く2回目の開催となる今回も、大町市の特色ある5つのエリアを会場に、11カ国・36組のアーティストが37作品(うちパフォーマンスは3作品)の展示を行っています。北川フラム総合ディレクターのお話を交えながら、芸術祭の魅力を紹介します!

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕『北アルプス国際芸術祭2020-2021』ポスター

市民のアート活動があって実現したトリエンナーレ

『北アルプス国際芸術祭』は平成29(2017)年6~7月に「現代アートの力を借りて大町市の魅力を国内外に発信する」「観光誘客により人々の流動・交流を起こし、地域を交流の場とする」「地域の活気や元気を取り戻し、持続可能な地域づくりを目指す」などの目標を掲げて、3年に1度の国際芸術祭(トリエンナーレ)として初開催されました。

総合ディレクターに就任した北川フラムさんは、『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ』(新潟県)によって、現代アートを介して、地域に暮らす人々やアーティスト、観光客などが交流し、作品を鑑賞しながら地域を回遊することによって地域の魅力を発見するという、新たな芸術祭のスタイルを生み出しました。これは延べ100万人以上の来場者を誇る『瀬戸内国際芸術祭』(岡山県・香川県)で確立され、全国各地で芸術祭が開催されるきっかけになりました。フラムさんはさらに『北アルプス国際芸術祭』のほか『房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス』(千葉県)、『奥能登国際芸術祭』(石川県)を手がけ、アートによる地域づくりを行っています。

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕総合ディレクターの北川フラムさん

フラムさんは大町市との出会いをこう振り返ります。
「大町で観光ガイドをする方々など地域に関わるいくつかのグループの皆さんに呼ばれて、講演などで何回か伺ったんです。その皆さんが『信濃大町 食とアートの廻廊』というイベントを開催し、僕も市役所と縁ができ、牛越徹(うしこしとおる)市長とお会いして、芸術祭とはどんなものなのか、大町だったらどんなことができるのかなどのお話をしました。そんな経緯があって市長が“やろう!”とおっしゃった。清水の舞台から飛び降りると言いますが、僕にとって芸術祭をやることは、清水の舞台の10倍の高さから飛び降りるようなもの。それほどの覚悟が必要だから最初はお断りしたんです」

初回の芸術祭開催前の大町市では、一般財団法人地域創造「地域文化コーディネーター派遣モデル事業」から生まれた取組で、プロのアーティストやクリエイターが企画プロデュースやパフォーマンスなどを指導する『大町冬期芸術大学』、地元のアーティスト・杉原信幸(すぎはらのぶゆき)さんがアートディレクターを務める『信濃の国 原始感覚美術祭』の開催とそれに伴う数人のアーティストの移住、江戸末期に建てられた麻の倉を再生・整備してクラフトやアートの拠点とする『麻倉プロジェクト』、アメリカ・カリフォルニア州メンドシーノの作家たちとの芸術交流、アーティストが滞在制作する『信濃大町あさひAIR』の整備など、市民による芸術祭の芽生えとなる様々な動きがありました。

大町市でのリサーチを重ねたフラムさんは、「水・木・土・空~土地は気配であり、透明度であり、重さなのだ~」をコンセプトに掲げ、5つのエリアに集中させた作品展示を行うことを提案します。北アルプスの雪解け水や湧水が豊富な「源流エリア」。かつて塩の道と呼ばれた道筋に3つの湖がある「仁科三湖(にしなさんこ)エリア」。千国(ちくに)街道の宿場町として栄えた「市街地エリア」。里山の暮らしと風景を残す「東山エリア」。黒部ダムの玄関口であり、いくつものダムが築かれている「ダムエリア」。アーティストはそれぞれ違った地域性をもつ5つのエリアから展示会場を選び、地域の歴史や自然に触れ、人々との交流を通して作品を創作します。鑑賞者は作品を巡りながら町を回遊し、大町市を体験していくという仕掛けです。

平成29(2017)年に開催された前回は、地元の食材を使って芸術祭特別メニューの開発を行った13の飲食店(タイアップレストラン)、町や芸術祭を盛り上げようと展示会場の受付や案内などのおもてなしを担当したボランティアサポーター、アーティストの制作を手伝う地域住民の皆さんの協力もあって、来場者は延べ40万人にものぼりました。また経済効果として、市内の観光消費総額4.7億円、長野県内への経済波及効果10.0億円と発表されています。

実行委員長でもある牛越市長も「優れたアート作品を通じて、大町市がもつ歴史や風土がより鮮明に表現され、来場いただいた皆様にもアートの素晴らしさ、大町市の魅力を十分に堪能いただけたものと考えています。同時に市民の皆様にも、地元の魅力を再認識していただける機会になったのではないでしょうか」と語っています。

2017年の北アルプス国際芸術祭の作品(Photo by Tsuyoshi Hogo)

  • 秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕ジェームズ・タップスコット(オーストラリア)『Arc ZERO』
  • 秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕五十嵐靖晃(日本)『雲結い』
  • 秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕ニコライ・ポリスキー(ロシア)『バンブーウェーブ』
  • 秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕フェリーチェ・ヴァリーニ(スイス/フランス)『集落のための楕円』

地域の方たちが芸術祭を面白がってくれたことが開催の後押しに

『北アルプス国際芸術祭2020-2021』は、令和3(2021)年5月の先行公開を経て、10月2日、待ちに待った開幕を迎えました。本来は令和2(2020)年5月から開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から延期をしての開催となりました。

開幕を控えた9月末のインタビューでフラムさんに見どころを伺ったところ「見どころを話せるような余裕はまだまだありません。ひとまず幕を開けられることにホッとしています。もちろん気を引き締めて感染対策など行っていきます」との答え。そして、コロナに振り回されながらも準備を進めてきた期間をこう振り返りました。

「運が良かったのは、コロナが感染拡大する前に、参加する国内外のアーティストのほとんどが大町市にやってきて、作品を展示する会場などのリサーチを終えていたことです。再び大町市に入れた外国人アーティストは一人だけですが、すべてのアーティストとオンラインで綿密な打ち合わせを行いました。オンラインの発達によりアーティストが自身が現地にいるように様々なことを確認することができましたし、地域の皆さんのお手伝いのお陰で、各アーティストがそれぞれの拠点で制作を続けることができました。演劇やライブなどのパフォーマンスのプログラムは、携わっている人数が多いため、時期がずれるなどで一旦止まってしまうと再び動き出すことは難しい。でも展示はメンテナンスさえすれば多少の延期には対応できますから。ただ今よりさらに1年、2年と延期になってしまうと、アーティストの思考も変わり、作品の賞味期限が切れてしまうこともあるけれど。そして芸術祭の準備を進める上では、初回に関わってくれた地域の皆さん、特に年配の方々が芸術祭を面白がって団結してくれたこと、また見たいと言ってくれたことが大きかった。これは、ありがたかったですね。皆さんの地域に対する愛情が非常に深いことを改めて感じることができました」

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕10月2日に開催された見学ツアーで作品を解説するフラムさん

開幕初日の10月2日(土)、澄み渡る秋空のもと、報道関係者などを対象とした見学ツアーが行われ、早々に展示作品をめぐる機会をいただきました。その中から、一部の作品を紹介します。

ダムエリア/トム・ミュラー(オーストラリア)『源泉〈岩、川、起源、水、全長、緊張、間〉』
高瀬川の上流から流されてきたと考えられている全長22メートル、高さ9メートルの巨大な仙人岩に、川からポンプで汲み上げた水で滝をつくり、霧を発生させた作品は、そのスケールもさることながら、仙人が棲むという伝説とも相まって、神秘的な空間をつくり上げています。

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕トム・ミュラー(オーストラリア)『源泉〈岩、川、起源、水、全長、緊張、間〉』

ダムエリア/磯辺行久(日本)『不確かな風向』
土や岩石を盛り立てて造られるロックフィルダムとして、125メートルという日本有数の高さを誇る七倉ダム。麓の広場には、そこから掘り出した岩で描かれた作品が広がります。その表現は道にも唐草模様にも見えます。この空間全体が作品であるかのように、圧倒的なパワーで迫ってきます。

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕磯辺行久(日本)『不確かな風向』

源流エリア/マナル・アルドワイヤン(サウジアラビア)『私を照らす』
天照大神(あまてらすおおみかみ)が祀られている須沼神明社(すぬましんめいしゃ)の舞台に、およそ200本ものしめ縄が吊り下げられた壮観なインスタレーション。その中心に設置された柱が夕方になると妖しく美しく輝きます。しめ縄は地域の皆さんの協力でなわれたものです。

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕マナル・アルドワイヤン(サウジアラビア)『私を照らす』

市街地エリア/渡邊のり子(日本)『今日までの大町の話』
5センチ四方の白い箱の中に、身近な小物をコラージュすることで、さまざまな“大町”を表現した、箱庭のような世界の数々。芸術祭期間中のワークショップでは、お客様が抱く町の記憶や歴史を詰め込んだ“大町”を制作していただき、作家の作品とともに展示する予定です。

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕渡邊のり子(日本)『今日までの大町の話』

市街地エリア/原倫太郎+原游(日本)『ウォーターランド~小さな大町~』
信濃大町の大自然、四季、動物、建物、人々の生活、伝承などをミニュチュア化し、“フィクショナルな小さな大町”を表現した体験できるインスタレーション。発泡スチロールの小さな船を浮かべて町のあちこちを回ってみませんか?お子さんたちに大人気の展示です!

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕原倫太郎+原游(日本)『ウォーターランド~小さな大町~』

平成29(2017)年の前回は、ダンスや音楽ライブはありましたが、今年からは演劇も加わりました。10月23日には、まつもと市民芸術館総監督・串田和美さん(日本)による『月夜のファウスト-独り芝居バージョン-』、11月7日には、和田永+Nicos Orchest-Labさん(日本)による『ELECTRONICOS FANTASTICOS!電磁森林劇場』が実施されます。

パフォーマンス/マームとジプシー×ミナ ペルホネン『Letter』(10月2、3日に上演終了)
演劇界を牽引する藤田貴大(ふじたたかひろ)さん率いるマームとジプシー、北アルプス国際芸術祭のビジュアル・ディレクターでもある皆川明さんのブランド「ミナ ペルホネン」がコラボした舞台。皆川さんが毎週メール配信している『Letter』から、藤田さんが言葉を抽出して演出。森の中の劇場にお似合いの幻想的な物語が展開されました。

秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕マームとジプシー×ミナ ペルホネン『Letter』 Photo by Moe Kurita

大町を味わいつくそう!

前回は商店街、ホテル街の飲食店の皆さんが腕によりをかけた芸術祭特別メニューでおもてなしをしてくださいました。今回はそうした各店舗が芸術祭限定の弁当を研究・開発しています。また、夜にはお酒を楽しみたい方々のために、芸術祭用にアテ(酒の肴)も開発されました。もちろん、信濃おおまち「信州の安心なお店」でも食事もお楽しみください。大町の良質な食材、伝統食などを活用したお料理、清らかな水で仕込んだ日本酒などでお腹をいっぱいにしてください。

  • 秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕地彩レストラン おこひる公堂
    『地彩弁当』
  • 秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕アテプロジェクト
    「信濃大町の酒菜(SAKANA)」
  • 秋深まる北アルプス・大町の魅力に触れる『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕信濃大町 地彩べんとう

インタビューを行った日(9月末)、朝から全作品をチェックして回ったフラムさんは最後に「いやぁ、大町市は本当に広いよね。そして調べれば調べるほど、地域に入れば入り込むほど、自然と日本人が付き合ってきた原点がよくわかる。作品を見ながらまどろんで、自分たちの来し方(きしかた)や行く末(ゆくすえ)を考えるにはとてもいいと思います。その行為こそが作品の面白さ、土地の力を感じることにつながるんです」と語ってくださいました。

『北アルプス国際芸術祭2020-2021』開幕初日の見学ツアーに向かう道すがら、最寄りのインターチェンジで高速道路を降りると、延期後の芸術祭開催を心待ちにしていた方々が大勢いるんだなと思わずにはいられないくらい、大町市方面に向かうたくさんの自動車に出会いました。

大町市の雄大な自然の中に展示されている作品を、時間をかけて、ゆっくり眺めていると、普段から見慣れている風景までアート作品に見えてくるから不思議です。皆さんも何度か足を運んで、ゆっくりすべての作品を味わってはいかがでしょう?「水・木・土・空~土地は気配であり、透明度であり、重さなのだ~」というコンセプトを感じながら。これから紅葉や冠雪など季節の移り変わりに伴う風景の変化の中で、アート作品や大町市の魅力に触れることで、皆さんの心の中にも何か発見があるかもしれません。

文:いまいこういち
撮影:大木文彦

北アルプス国際芸術祭2020-2021
北アルプス国際芸術祭2020-2021

2021年10月2日(土)~11月21日(日)
詳しいスケジュールは公式サイトをご確認ください。

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