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ジブリパークとジブリ展 公園の中に広がる世界

ジブリパークとジブリ展 公園の中に広がる世界

令和4(2022)年11月1日、愛知県長久手市に開園する「ジブリパーク」。それに先駆けて、ジブリパークの世界を楽しめる展覧会「ジブリパークとジブリ展」が、長野県立美術館で開催されています。
内覧会で行われた、ジブリパークの制作現場を指揮する宮﨑吾朗監督のインタビュートークの様子と、展覧会の見どころを紹介します。

愛知県と長野県は隣同士。展覧会がジブリパークへの“入り口”に

ジブリパークは、愛知県長久手市にある「愛・地球博記念公園」の中にオープンします。工事は1期と2期に分けて進められていて、秋の開園に向けて現在は1期の大詰めで、展示物の搬入やショップやカフェの準備をしているとのこと。吾朗監督は、開園のきっかけをこのように話します。

ジブリパークとジブリ展ジブリパークの制作現場を指揮する宮﨑吾朗監督

「スタジオジブリでは、今回の展覧会のように全国各地で展示を見ていただくほか、東京・三鷹にあるジブリ美術館でも毎年企画展示を行っています。そういうときに、資料だけ展示していればいいのですが、面白くしたいと思って、つい変な立体造形物をいろいろと作ってしまう。それが、展示が終わると倉庫に戻ってきて、やたらあふれているという状況で、倉庫が欲しい…という話が伝わって、愛知県のほうから、『収蔵しながら展示もするという施設をつくってみてはどうか』というご提案をいただきました」

出発点となったのは倉庫。実際にジブリパークでも、温水プールが入っていた建物の空間を利用した「ジブリの大倉庫」がつくられています。さらにその背景には、吾朗監督の思いもあったようです。

「スタジオジブリという会社、いえ、“会社”というよりは、“宮﨑駿、高畑勲、鈴木敏夫という人たち”が30年以上、たくさん映画を作ってきました。僕としては、その作品が、彼らがこの先亡くなったときに、消えていってしまうのはとても残念だと思いまして。皆に忘れられないようにしてもらえる場所があればと考えていました。それが、ジブリパークというかたちに結びついています。映画を見た方に訪れていただきたいというのもありますが、逆にジブリパークに来たことが、映画を見るということにもつながるとうれしいですね」

吾朗監督は信州大学農学部森林工学科卒業後、建設コンサルタントとして公共造園や都市緑化などの計画・設計に従事。その後、三鷹の森ジブリ美術館の総合デザインを手がけ、初代館長も務めています。ジブリパークでも、制作現場を指揮していますが、大切にしているのは「お任せ」することだと言います。

「自分たちが最初に考えた設計図を実現してくれるのは、初期の段階でいえば建築設計の方ですし、現場が始まればゼネコンやサブコンの皆さん、職人の皆さんです。いろいろな分野のプロが、入れ代わり立ち代わりで仕事をしてくれるので、僕としては、『ゴールはこっちなので、あとは思うようにやってください』というのが一番良いと思っています。任されて、好きにしてくださいって言われて嫌な気分になる職人は一人もいない。預けてしまったほうがむしろ、より良いものができあがると考えています」

ジブリパークとジブリ展

同展は長野県を含め全国5カ所を巡回します。スタートが長野であることについて吾朗監督は、「(社内のイベント担当者に)理由を聞いたら、『吾朗さんが信州大学出身だから』と言われましたが、全然意味が分からない。彼の、僕に対する忖度ですかね」と笑顔で応じてくれました。そして、大学時代の思い出も話してくれました。

「僕は農学部なので伊那にいました。松本まではちょくちょく行ける距離ですが、長野となると電車賃もかかるし、バイクだと3時間くらいかかるので、結構ハードルが高くて。それでも(長野市にある)教育学部に同じサークルの友人がいたのでときどき遊びに来たり、山登りもしていたので戸隠に登って黒姫の方へ向かったりした思い出があります」

自身の仕事を紹介する展覧会を県内で開くことについては、「ちょっと恥ずかしい気持ちもある」としながらも、最後はこのように締めくくってくれました。

「実は長野県は愛知県の隣の県なので、そういう意味でお隣から巡回展が始まるのはすごく良いことなのではないかと思います。北信と南信では全然距離感は違いますが…そこは目をつぶっていただいて。今回の展示の100倍、1000倍くらいのものがジブリパークに詰まっています。この展示が、ジブリパークの入り口になってくれるとうれしいですね」

ジブリパークとジブリ展

こだわり、技術、思い。「ジブリの世界」の裏側に触れる

ここからは、同館学芸員・池田淳史さんと一緒に、展覧会の内容と見どころを紹介していきます。

中に入るとまずお出迎えしてくれるのは「風の谷のナウシカ」から「劇場版 アーヤと魔女」までのポスタービジュアルと、「となりのトトロ」でおなじみの「ネコバス」です。

ジブリパークとジブリ展「ネコバス」とポスタービジュアル

「本展の『ネコバス』は、お子さまだけでなく、大人の方も乗れるようになっていますので、座り心地を体験してください」と池田さん。行先表示にもぜひ注目を!

  • ジブリパークとジブリ展
  • ジブリパークとジブリ展

展覧会は4章構成。第1章「はじまりは三鷹の森ジブリ美術館」では、宮﨑駿監督による美術館構想時のイメージボードをはじめ、それを具現化するためのスケッチや制作資料が展示されています。

  • ジブリパークとジブリ展宮﨑駿監督が描いたイメージボードなどを展示
  • ジブリパークとジブリ展開館前に作られたジブリ美術館の模型

第2章「アニメーションの世界をつくる」では、吾朗監督の初監督作品「ゲド戦記」(2006)、第2作「コクリコ坂から」(2011)、そしてスタジオジブリ初のフル3DCGアニメーション作品「アーヤと魔女」(2020)について、映画のベースとなったイメージボードやデザイン画、背景美術などを見ることができます。吾朗監督自らが企画・監修したジブリ美術館での企画展示「アーヤと魔女展」も再現。吾朗監督も「ジブリ美術館のために真面目に作った、すごく面白い展示なので、ぜひ見ていただきたい」と見どころに挙げていました。

ジブリパークとジブリ展「アーヤと魔女展」を再現

資料や映像を交えて、3Dアニメーションの仕組みなども分かりやすく紹介されています。吾朗監督曰く、「3DCGというと、コンピューターが勝手にキャラクターを作って動かしてくれるように思っている人もいるかもしれませんが、ツールがデジタルに変わっただけで、いわば、コンピューターという道具を使った手仕事」。実際に取り組んでみて、「手描きのアニメーションと基本的には変わらない」という自身の感想を残しておこうと、このような展示を企画したとのことでした。

  • ジブリパークとジブリ展ライティングについて説明
  • ジブリパークとジブリ展小道具のデザインを紹介

池田さんはこの第2章を「制作者、クリエイターとしての吾朗さんの姿が伝わる展示」と話します。特に見てほしいと言うのは「キャラクターに生命を吹き込む」と題したタッチパネルを使って表情を作ることができるコーナー。パネルの上には鏡が置かれています。「吾朗さんが、人は自分と似た表情を自然と作ってしまうことに気付いたとおっしゃっていて。キャラクターの表情を作って、ふと顔を上げたときに自分の顔が見えると面白いと考えたそうです。いくつもの表情を作ってきた吾朗さんだからこその発想だと思いました」

ジブリパークとジブリ展「キャラクターに生命を吹き込む」コーナーではタッチパネルで表情が作れる

続いて第3章は、模型や建築資材、現地の写真などで「サツキとメイの家」建築の時に吾朗監督が「本物」にこだわったポイントを紹介する「アニメーションの世界を本物に」です。

  • ジブリパークとジブリ展「サツキとメイの家」の模型
  • ジブリパークとジブリ展実際に使われていた柱を使用したパーゴラの再現展示

平成17(2005)年に行われた「愛・地球博(愛知万博)」のパビリオンとして建てられた「となりのトトロ」に登場する「サツキとメイの家」。映画の中には出てこなかった場所も含め「本当に人が住める家」を目指して、細部まで細かく丁寧に、創意工夫を凝らして建築された様子がうかがえます。

そして第4章「ジブリパークのつくりかた」では、実際のジブリパークの雰囲気と共に、吾朗監督がパークをつくる過程で、「ジブリの世界」をどのように考え、描き出しているのかを垣間見ることができます。

ジブリパークとジブリ展「ジブリの大倉庫」2階にある「にせの館長室」の再現展示
ジブリパークとジブリ展「ハウルの動く城」の城の前脚部分の1/1模型

イメージスケッチや模型なども数多く展示。「模型は展覧会以降は展示するところがないかもしれないので、そういう意味でも非常に貴重な資料だと思います」と池田さん。模型は本当に細かいところまで作り込まれているので、ぜひじっくりと目を凝らしてご覧ください。

ジブリパークとジブリ展「ハウルの動く城」模型と資料

エピローグでは、「アーヤと魔女」のアーヤたちがお見送り。吾朗監督の直筆サインとコメントもありました。

ジブリパークとジブリ展「ゆっくり来て下さい」という吾朗監督の直筆メッセージも

今回の会場、長野県立美術館は「ランドスケープ・ミュージアム」として、周囲の景観との一体化、調和する美術館をコンセプトにしています。池田さんは、「吾朗さんが信大卒業後に進んだのが、景観デザインや公園緑化などランドスケープ・アーキテクチャーの道でした。そういう面で何かつながりがあるように感じています」と話します。

吾朗監督は、ジブリパークのことを「緑の公園があって、その中にジブリの建物が点在していて、中にふらっと入れるのが理想」と語りました。それは、周囲の景観になじみ、気軽に入っていける“屋根のある公園のような美術館”をうたう同館ともどこか重なります。

昨年4月に開館した同館。県内外から、初めて足を運ぶという方も大勢いるでしょう。観覧後は、館外でリアルな自然も体感していただければ、「“長野で見た”ジブリパークとジブリ展」としてきっと思い出に残るのではないでしょうか。

ジブリパークとジブリ展同館学芸員・池田淳史さん。館内には撮影スポットも何カ所かある

© Studio Ghibli © Museo d’Arte Ghibli

取材・文:山口敦子(タナカラ)
撮影:内山温那

ジブリパークとジブリ展
会期:7月16日(土)~ 10月10日(月・祝)
開館時間:9:00~17:00(展示室入場は16:30まで)
休館日:水曜日
観覧料:一般1,500円、中高生1,000円、小学生700円

混雑緩和のため、本展は事前予約制(日時指定券)です。
入場無料の方(未就学児を除く)も「日時指定券」のお申し込みが必要です。
詳細は展覧会特設サイトをご覧ください。

長野県立美術館

長野県立美術館
長野市箱清水1-4-4(城山公園内・善光寺東隣)

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