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ザワメキサポートセンターと「ザワメキアート展」 “ザワメキポイント”と出会う喜び

ザワメキサポートセンターと「ザワメキアート展」 “ザワメキポイント”と出会う喜び

皆さんは、「ザワメキサポートセンター」をご存知ですか?長野県では今年度、社会福祉法人長野県社会福祉事業団に長野県障がい者芸術文化活動支援センターを設置しました。「ザワメキサポートセンター」は、その愛称です。2016(平成28)年に始まった「ザワメキアート展 ~信州の障がいのある人の表現とアール・ブリュット」の取組の成果を引き継ぎ、県内における障がいのある人の芸術文化活動の環境整備、支援等を行っています。

設置の背景には、国の政策があります。2014(平成26)年度から、各地に障がいのある人の芸術文化活動を支援する機関が設置され始め、障がいのある人が音楽、映画、絵などを鑑賞したり創造したりするための環境整備や機会拡大を目的とした「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(2018年公布・施行)が定められました。その後、全国、都道府県ごとに「障害者芸術文化活動支援センター」の設置が進められてきた動きのなかに、同センターも位置づけられます。
今回は、事務局企画課の中村勘二さんと持田めぐみさんに、同センターの活動や支援、そして「ザワメキアート展 2022 スキスギテステキ。」について伺いました。

障がいのある人が表現した作品や創作する姿に向き合ったときに覚える、どこか“ザワザワ”する感覚。独自の制作方法や作品への強いこだわり。よく分からないが何だかすごいと思わせる熱量、思わず笑顔になってしまうユニークさ。そんな不思議な魅力がある作品を紹介する「ザワメキアート展」は2016(平成28)年に始まりました。

  • ザワメキアート展過去の展示の様子
  • ザワメキアート展
  • ザワメキアート展
  • ザワメキアート展

「CULTURE.NAGANO」では以前、作家2人のもとを訪ねて取材し、制作する様子や作品への思いを紹介しています。

ザワメキアート展2019-信州の障がいのある人の表現とアール・ブリュット

今年度は「ザワメキアート展 2022 スキスギテステキ。」と題して、松本市(1月20日~29日)と東御市(2月4日~19日)の2会場で開催。ゲストキュレーターに画家・イラストレーターの森泉智哉さんを迎え、「何かを本気で好きになってしまった」人たちの作品を展示します。

作品だけではなく、「どんな人が」「どうやって」作ったのかを紹介する

中村さんは「ザワメキアート展」の立ち上げから携わっているとのことですが、その経緯から伺えますか?

中村さん
障がいのある方の芸術活動は1950年代頃から始まったようです。社会福祉法人グロー(滋賀県)が海外で展覧会を開き、それが評価されて逆輸入のような形で、日本でもブームが生まれました。県内でも1998(平成10)年、長野冬季オリンピック・パラリンピックに合わせて、市民やボランティアが企画・運営した「アートパラリンピック」が行われています。そういう流れもあり、割とオリンピックがキーワードになっていて、「ザワメキアート展」も東京オリンピック・パラリンピックをゴールとして、その前の5年間やってみようということで始まりました。
県の担当者とも調整しながら、福祉と美術、それぞれの関係者を集めて実行委員会を立ち上げました。私は以前、福祉施設で働いていたので知り合いを中心に、美術関係者にも声をかけました。福祉と美術、どちらの要素も必要でしたので。持田さんは美術をやってきた方です。

持田さん
私は2017(平成29)年の夏からスタッフとして働いています。ハローワークで、求人を見つけて応募しました。美術系の学校を出ていたので、そういう仕事があればいいなと思っていましたが、なかなかないじゃないですか。でも、求人情報を探そうとパソコンを見たら、最初にパッとここの求人が表示されて、ちょっと運命的な出会いでした(笑)。
最初は「ザワメキアート展」のことは知らなかったんですが、携わることになって、かなり本格的な公募展で驚きました。

写真:ザワメキサポートセンターと「ザワメキアート展」持田めぐみさん(左)と中村勘二さん

公募すると、作品はどのくらい集まるのですか?

持田さん
年にもよりますが、150~200名ほど応募があります。作品は、まず1次審査で50名前後に絞り込みます。そこから、制作現場である施設や自宅へ取材に伺います。そして取材した実行委員や協力スタッフが、2次審査でプレゼンを行い、それをもとに毎年審査員が20名の入選者を決めていました。

中村さん
取材は、「ザワメキアート展」のような障がいのある方の作品展の特徴の1つかもしれません。美術展というと、その名のとおり美術作品がメインなわけですが、私たちは「どうやって作っているんだろう」ということを調べて紹介することに重きを置いています。作品だけではなく、作者はこういう人だということや、作品が生まれた背景、制作の様子などを含めた物語を伝えたいと考えています。

持田さん
支援者の方は「この絵がいい」と言って応募してくれるのですが、取材に行くとそれ以外の部分が目に留まり、結果的に違う作品を展示することになったこともありました。
取材は実行委員や協力スタッフで手分けして行っていて、県内各地に出向くので、時には泊りがけになったりもしますが、宝探しみたいで楽しいです。2次審査のプレゼンは気持ちが入って、制限時間をオーバーしてしまう人も多いです。

中村さん
私が印象に残っているのは、小さい折り鶴です。作家の方は50代で全盲になったのですが、つまようじを使って折っていて、本当に細かい作業をしています。取材では「折っているといろいろなことを忘れて没頭できる」という声を聞くこともでき、2次審査では、折る様子を撮影した動画を見せながら、プレゼンしていました。折り鶴は、なかなか芸術作品として展示しづらいところがあるのですが、この作家の作品の背景にある“モノガタリ”に審査員の方がザワメいたのだと思います。この時の展示では、目をつぶって折り紙をしてみる体験コーナーを設けました。

  • 写真:ザワメキアート展「ザワメキアート展2017」の作品
  • 写真:ザワメキアート展アイマスクをして折り紙をしてみる体験コーナー

アートをきっかけにして、知ることから始める

今回からは公募ではなく、これまでの流れを継承しながら、ゲストキュレーターを迎えて新たな展開となります。

中村さん
昨年は、過去4回の展示の総括としての展覧会を開き、その時に佐久市在住でNPO法人AITプログラムディレクターのロジャー・マクドナルドさんにキュレーションしていただきました。それがキュレーターの視点だからこそ見える魅力もあると気付くきっかけになりました。
今回はこれまで2次審査で選ばれなかった方の作品が中心ですが、新たに情報を得て取材し、展示することになった作品もあります。ゲストキュレーターの森泉さんは、選定段階から携わり、取材にも同行していただいています。

写真:ザワメキサポートセンターと「ザワメキアート展」中村勘二さん

持田さん
「スキスギテステキ。」というテーマは、作品の魅力だけではなく、作者の作品への強い思いやこだわり、そしてそれを支える支援者の皆さんの協力する体制など、さまざまな「好き」を含めています。「スキスギテステキ」な人たちを応援している人たちも「スキスギテステキ」だよね、という思いも込めて。森泉さんも「何かを本気で好きになってしまった人たち。その気持ちがなにより素敵だよね」とおっしゃっています。

同展のチラシを拝見して気になったのですが、由宇太さんの作品はタイピングした文字、ですか?

持田さん
由宇太さんは、好きなスポーツ選手やその時世の話題などを盛り込んで、しりとりになるようにパソコンで打ち込んでいます。車椅子で生活をされていて、体を動かさなくてもできることとして、子どもの頃からしりとりをよくしていたそうです。パソコン操作も同じような理由で習得して、何か制作活動をしてみようとなったときに、その2つがつながった。そして今回のような作品が生まれました。
実際には、作家本人が作品として応募するということは難しく、「これ、面白いかも」と感じた支援者の皆さんが応募してくださることがほとんどです。そういうふうにアンテナを張ってくださる方が増えてきたということも、展示を継続してきた成果の1つだと思っています。

中村さん
長野県は、障がいのある方が暮らしやすい社会をつくる「信州あいサポート運動」を行っています。障がいのある方に対して、どう接していいか分からず、距離を置いてしまう人もいますが、まずは知ることから始めよう、と。そういう場面でアートというのは、いいきっかけになるかもしれません。あまり礼賛されたり、障がいのある人は皆すごい作品を作ると思われたりしても困りますけど。
先ほど、いくつかある作品の中で由宇太さんの作品を目に留められましたが、絵ではなく文字に着目されたのがちょっと新鮮で、人によって受け止め方は違うと改めて感じました。障がいのある方の暮らしの断片みたいなものを紹介して、どう感じるかは自由。あまり難しく考えずに、「こういうものを作る人がいるんだ」くらいの感じで見てもらえればいいなと思います。

写真:ザワメキアート展松本市で開催した展示の様子
写真:ザワメキアート展由宇太さんの作品

各々の“ザワメキポイント”があることが面白い

中村さん
実は、「ザワメキアート展」自体は、東京オリンピック・パラリンピックと共に終了する流れでした。とはいえ、継続していきたいという気持ちはあったので、県が障がい者芸術文化活動支援センターの運営事業者を公募していると知り、応募しました。「ザワメキアート展」を立ち上げて運営する中で、「これは作品になるのか」という質問や、作品の保管、貸し出し、販売などの相談も受けるようになりました。そういうことも含めて幅広く対応できるような機能を備えた組織を作りたいという思いがありました。
現在、センターは「相談支援」、「人材育成」、「ネットワーク」、「作品展示」、「貸出・保管」、「調査・発信」という6つの機能を持っています。まだ始まったばかりで手探りの部分もありますが、「ザワメキアート展」の運営で得たものを生かしつつ、スタッフ4人で試行錯誤しながら進めているところです。

最近は、障がい者アートがメディアなどで取り上げられることが増えてきたように感じます。

中村さん
確かにそういう雰囲気はありますが、注目されるようになっても、顔ぶれがあまり変わらないようにも感じていて。波及させて、多くの皆さんに見ていただくことも私たちのミッションかなと思っています。見る人が100人いれば、気になるところ、刺さる部分も100通りあるはず。各々の“ザワメキポイント”があることが、面白いじゃないですか。

持田さん
何かグッとくる作品と出会えば、どうやって作っているのか、どういう人が作っているのか、というふうに関心が深まる。そういう人を増やしていきたいです。

写真:ザワメキサポートセンターと「ザワメキアート展」持田めぐみさん

中村さん
「ザワメキアート展」のロゴは、「こうだって決めつけずに、アメーバみたいにいろいろな形に変わっていくようなものがいいのでは?」という話から生まれました。今回からゲストキュレーターを招くという形に方針転換しましたが、これからも、形を変えながらやっていければと思っています。センターとしても6つの機能のうち、どこに注力するかはその時々で変わってくるはずです。私たちの取り組みに興味を持ってくれて、「ザワメキサポートセンターのサポートをしたい」という人も増えたらうれしいですね。

コラム・これまで頑張ってきた施設や個人をつなぎ、知恵や工夫の共有を

厚生労働省の「障害者芸術文化活動普及支援事業」は、障がいのある人の美術・音楽・演劇・ダンスなどの芸術文化活動の中間支援をする全国規模の取り組みです。前身の「障害者の芸術活動支援モデル事業」を経て、2017(平成29)年度から全国「連携事務局」、ブロック「広域センター」、都道府県「支援センター」といった拠点が整備され、新たにスタートしました。事業の柱は、「相談支援」「人材育成」「関係者のネットワークづくり」「発表などの機会の創出」「情報収集・発信」「成果報告の取りまとめ」とされています。2022(令和4)年度は39都府県に支援センターが設置されました。「ザワメキサポートセンター」もその一つです。

知的・精神の障がいの施設では言葉によるコミュニケーションができない人も多いですが、そうした人のこだわり行動などを抑え込むのではなく、個性を育み、コミュニケーションの可能性を広げる表現活動として捉え直す流れから、表現活動を重視する施設も増えてきています。NPO法人ながのアートミーティング(関孝之理事長)が支援する人材を育成する機会を設けたのも大きいでしょう。駒ヶ根市にある県の施設・西駒郷にはアトリエがあり、専任スタッフもいます。軽井沢町には障がいのある人が描いた作品をデザイナーが商品化して報酬につなげている施設も生まれています。表現活動の内容もアーティストが介在することで、音楽やパーカッション、演劇やダンスなどパフォーマンスにも広がっています。サーカス・アーティストの金井ケイスケさんは横浜を拠点に障がいのあるパフォーマーと作品づくりを行っている「SLOW LABEL」のディレクターで、東京パラリンピックの開閉会式の演出にも携わりました。キャリアと独自のネットワークを生かし、県内で新たなパフォーマンス活動も始めています。

「障害者芸術文化活動普及支援事業」では、各県の支援センターが大学や文化施設、アーティストはもちろん、さまざまなネットワークと連携して独自性のある活動が展開されています。また近年はハードルが高いと思われがちな舞台系の取り組みも見られるようになってきました。このような流れもあり、同センターの活動にも期待が寄せられています。まずは「ザワメキアート展」で培ったノウハウや関係を大事にしながら、広い県内、表現活動に興味のある施設や個人、アーティストや文化施設などを掘り起こし、ネットワーク化することが重要だと思います。活動におけるニーズ、知恵や工夫の共有ができるような環境が整えば、事業の幅も広がるでしょう。そしてその先に表現を介して多様な人びとが出会い、交流し、理解を深め合う機会が創造されるのです。

障がいがある人や生きづらさを抱える人と、福祉・医療・教育現場、アーティスト、文化施設が出会うプラットフォーム「じゃーまーいいか」編集部 いまいこういちさん

「ザワメキアート展 2022 スキスギテステキ。」松本市の会場を訪れてみました。作品に対峙すると「何かを本気で好きになってしまった」というパワーに圧倒されました。そして、作品紹介のパネルに記された言葉。支援者からは、時に見守り、励まし、共に楽しむ眼差しを、森泉さんからは枠にとらわれない芸術表現の可能性を感じました。きっとこれが“ザワザワ”する感覚。皆さんもぜひ会場に足を運んで“ザワメキポイント”を見つけてみてください。

取材・文:山口敦子(タナカラ)
インタビュー撮影:清水隆史

ザワメキアート展 2022 スキスギテステキ。【東御市会場】
2023年2月4日(土)~2月19日(日)
東御市文化会館(サンテラスホール)

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