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市立須坂図書館 人から人へ、めぐる本の縁が地域をつなぐ

市立須坂図書館 人から人へ、めぐる本の縁が地域をつなぐ

長野県は博物館・美術館の数や公民館の数が全国1位(※1)ですが、実は図書館の数も多く、人口当たりの数で全国第2位(※2)となっています。CULTURE.NAGANOでは、「文化施設情報」として「図書館」のカテゴリーを設け、県内の主な図書館を掲載しています。
今回は、県内各地域でユニークな活動を行っている図書館の中から、市立須坂図書館を紹介します。公立図書館から市内に広がる「信州須坂どこでも図書館」と「ブックリサイクル市」の連動により本が循環する仕組みや、所蔵作品を文化資源として共有する「信州須坂紙芝居のさとプロジェクト」を通して、図書館の活動と地域や市民とつながりが見えてきます。

※1 平成30年度社会教育調査統計表により
※2 2021年社会生活統計指標より

「本を読める場所」を作ってくれる人を、応援したい

「信州須坂どこでも図書館」は、市民の読書活動の推進と地域活性化を目的に、2013(平成25)年11月に始まりました。現在は66カ所が参加しており、市の施設やカフェ、菓子店、ゲストハウスのほか、病院、企業、自動車整備工場とバラエティー豊かなラインアップです。

写真:須坂どこでも図書館信州須坂どこでも図書館

今回はその中の1つ、須坂駅の西口にある「絵本館おはなしの森」を須坂図書館の文平玲子館長に案内してもらいました。

  • 須坂市立須坂図書館
  • 須坂市立須坂図書館

「絵本館おはなしの森」は、登録料(100円)を払って会員証を作れば、絵本を借りることができます。代表の櫻井郁子さんがここを開設したのは2002(平成14)年、自身が70歳の時でした。もともとは、交通事故が原因で筆も持てないようになってしまった櫻井さんの夫が、リハビリの成果で絵を描けるようになり、「せっかくなら皆にその絵を見てもらおう」と展示する場所として作ったもの。その際、「絵本を置けば、より多くの人が来てくれる」とアドバイスされたことが絵本館誕生のきっかけになりました。当初、40~50冊だった絵本は、20年の時を経て、2500冊ほどに増えました。開館は週2日でしたが、コロナ禍で現在は月1日に。その分、1回の貸し出し点数に制限を設けず、読みたい本を好きなだけ借りられるようにしているそうです。

櫻井さん
「閉館しようと思った時もありましたが、来たいという声があったので、月に1日だけでもと続けてきました。数組しか来ない日もありましたが、今思えば、やはり辞めなくて良かった。もし閉めたら、子どもたちの楽しみが減っちゃいますからね」

写真:須坂市立須坂図書館「絵本館おはなしの森」の代表・櫻井郁子さん

2021 (令和3) 年には開館20周年を記念したイベントを企画。文平館長が「図書館も一緒にお手伝いします」と声をかけて準備を進めていましたが、コロナの影響で中止になってしまいました。その後、櫻井さんが「やっぱりイベントをやりたい」と須坂図書館を訪れ、企画が再始動。2022(令和4)年10月に、図書館評論家の赤木かん子さんを迎えた講演会と、それに合わせて、館内の改装も実施。より絵本を楽しめる空間にリニューアルしました。

文平館長
「櫻井さんが『そろそろ閉めようか…』と弱音をおっしゃっていたので、前向きな気持ちになってほしかった。赤木先生をお招きして『こうしたらよみがえるよ!』と図書館の職員も改装のお手伝いをしました。ちょっと強引だったかもしれませんが…でも、櫻井さんもイベントの招待状を作ってくれましたよね」

櫻井さん
「これまで関わりのあった方をお呼びして、お祝いができて良かったです。昔、子どもと一緒に利用してくれていたお母さんたちも久しぶりに顔を合わせることができて、ちょっとした同窓会のようでした。私もとっても懐かしかった。続けることに意味を見いだすことができたので、今は閉めようという気持ちはなくなったかな。文平さんをはじめ、図書館の皆さんが応援してくれるので、心強いですよ」

写真:須坂市立須坂図書館

文平館長の就任前から、図書館とつながりがあったという櫻井さん。当時のことをこう振り返ります。

櫻井さん
「以前は2年に1回くらい館長が変わって、これでは腰を据えて取り組めないだろうな、図書館がどうなっていくか心配だな、と思っていた時期もありました。公募があって、文平さんのような方が来てくれた。新しい風が吹いて、図書館が変わりました」

文平館長
「私からすれば、櫻井さんのような方が、こういう本を読める場所を開放してくれていることが、奇跡のように思います。だから、これからも続けていってほしいですね」

櫻井さん
「さあ、どうかね(笑)。それでも、私自身、絵本が好きだから、続けていきたいとは思っています」

「どこでも図書館」の看板は本好きの目印、図書館応援の旗印

ここからは、「どこでも図書館」のコンセプトや今後の活動などについて、須坂図書館に場所を移して、文平館長にお話を伺います。

写真:須坂市立須坂図書館カウンターの上に掲げられている額は江戸後期の儒学者・書家の亀田鵬斎のひ孫・亀田雲鵬が揮毫(きごう)したもの

文平館長の就任は2014(平成26)年。「どこでも図書館」の取り組み自体はその前年に始まり、その時に決まっていたのは、図書室を持つ8つの地域公民館を含む13の公共施設と、当時の市生涯学習スポーツ課の課長補佐がフェイスブックで呼びかけて集まった8店舗だったそう。推進事項としてバトンを引き継いだ文平館長は、市が考える「どこでも図書館」と、市民が考える「どこでも図書館」にズレがあると感じたと言います。

文平館長
「図書館以外にも本を置けば、本に触れる機会が増える…という単純なものではありません。市民の皆さんが読みたい本や、子どもたちの成長に役立つ本が用意できるだろうか?という疑問がありました。そして、せっかく『どこでも図書館』として場所を提供してくださる方にとって、集客につながるとか、本をきっかけに新たな交流が生まれるとか、そういうメリットがある事業にしていかなければいけないと考えていました」

現在、「どこでも図書館」に置いてある本は、オーナーが所有するもののほか、図書館が提供する形で補充をしています。以前は貸し出し用のシールを配布していたそうですが、貸し出すかどうかは各館の判断に任せているとのこと。会社の中にある自動販売機の横に本棚を設けている「どこでも図書館」もあり、社内の人に利用は限定されていますが、その辺りも自由な運営ができるようにしています。

文平館長
「欲しいという人に譲ってもいいですが、本が減ってきたら教えてください、補充しますから、と伝えています。私たちは、応援するという立場です。そうすることで、『どこでも図書館』に参加してくださっている方も、図書館を応援してくださる。『どこでも図書館』の看板は、『本好き』の合図というか目印、そして図書館を応援する旗印みたいなものだと思っています」

須坂図書館では除籍した本や、正面玄関に設置しているブックリサイクル用のポストに市民から投函される本を集めて、読みたい人に配布する「ブックリサイクル市」を毎年10月に行っています。その前日、まずは「どこでも図書館」の館長を招いて、本を選んでもらっています。さらに、須坂図書館の西館には、まるごとリサイクル本の部屋があり、その前の本棚には、どんな本があるか見えるように、担当職員がいつも楽しく「面だし」しているそうです。「どこでも図書館」の館長はいつでも、本棚からはもちろん、部屋に入って探して持ち帰ってOK。「小学校の図書委員みたい」と楽しんでくれている方も多いそうです。

文平館長
「『どこでも図書館』と『ブックリサイクル市』を連動させたことが、須坂独自の形になっているのかもしれません。優先的にもらえるというちょっとした特典を付けた。館長の皆さんには、ブックリサイクル市と、年度末の更新時、少なくとも年2回は来ていただくことになっていて、そこで顔を合わせることができる。こちらから訪ねていくとなると、図書館の職員の数も限られていてなかなか厳しいのですが、皆さんに来ていただけるような仕組みになっているのが、いいのだと思います。いずれは、館長さん同士で本の交換会や交流会を開いて、横のつながりも作っていきたいですね」

紙芝居のレプリカづくりが、まちづくり、ひとづくりへ

写真:須坂市立須坂図書館レプリカと共に、紙芝居用の舞台なども複製

須坂図書館では「信州須坂紙芝居のさとプロジェクト」という取り組みも応援しています。もともと須坂は紙芝居とゆかりのある地域。街頭紙芝居の「日本最後の絵元(えもと)」と呼ばれた塩﨑源一郎(1912~2000)が須坂市生まれで、生前、1000枚を超える紙芝居を市に寄贈しています。須坂図書館でも1800点を超える印刷紙芝居を所蔵。「おはなしの会」として登録しているボランティア団体の中には、紙芝居のグループもあります。

文平館長
「たくさんの貴重な紙芝居が市立博物館に眠っていると聞いた紙芝居のグループのメンバーが『一目見てみたい』と言ったことが始まりでした。実際に見ると、次は触ってみたい、演じてみたい、皆にも見てもらいたい…となりますよね。でも、博物館にある以上、そう簡単に使うことはできない。だったらレプリカを作ろうと、プロジェクトを立ち上げました」

  • 須坂市立須坂図書館
  • 須坂市立須坂図書館

県の「地域発元気づくり支援金」や市の「公益信託駒澤嘉須坂生涯学習振興基金」を活用し、数年かけて少しずつレプリカを制作。紙芝居用の舞台や自転車も復元しました。月1回、街頭での紙芝居上演会のほか、人材育成を担う「信州須坂とことん紙芝居塾」も企画。「信州須坂紙芝居のさとまつり」(今年は2月25日開催)では、紙芝居塾で学んだ人のデビューの場も設けています。さらにメンバーたちは、須坂のメインロード・蔵の町並みにある空き店舗を活用して、交流の場づくりをしようと奮闘しているとのこと。今後の展開が楽しみです。

目標は「親しみのある図書館」

写真:須坂市立須坂図書館文平玲子館長

以前、出版社に勤め、絵本の翻訳なども手がけていた文平館長。子どもの頃に暮らした須坂に戻ってきて、翻訳の仕事を続ける傍ら、周りの友人たちと子育てのフリーペーパーを作り始めました。その頃、市民の立場で図書館を利用しながら「もう少し、こういう図書館だったらいいのにな」と感じていたそう。その後、市の外部評価委員などを通して関わるうち、市政に興味を持つようになりました。館長を公募することを知ったときには、「外からではなく、中から何か変えることができるのではないか」と思ったそうです。

文平館長
「でも、そう簡単にはいきませんでした。外部からは気安く『図書館を新しくしてほしい!』などと言えても、館長というのは自分の思いだけで動ける立場ではありません。今、できることを考えて、やっていくしかない。使われていない部屋を開放することでスペースは広がるし、パーテーションを外すことで少し明るくなる。休憩コーナーや、お弁当を食べられる場所を設けたり、本棚の配置を変えたりすることで、風通しの良いオープンな雰囲気が生まれる。そうやって、少しでも使いやすい、過ごしやすい図書館にして、ファンを増やすことが、私の仕事です。市の公共施設は概ね築40年を越えていて、おそらく近い将来、改築の時を迎えます。その時に、市民の皆さんから『まずは図書館から』という声が届いたらうれしいですよね」

  • 須坂市立須坂図書館須坂図書館1階
  • 須坂市立須坂図書館公式キャラクターの「ぶっくるー」も
  • 須坂市立須坂図書館会議室は扉を外して郷土資料室に改修
  • 須坂市立須坂図書館2階の休憩コーナー

就任当初は、「司書の資格を持っていたこともあり、職員のお手伝いをしようと意気揚々としていました」と文平館長。しかし、しばらくしてその考えは間違っていたと気付きました。「職員には職員の、館長には館長の仕事があるんですよね」と振り返ります。思いが通じず、もどかしかったり、悲しかったりする時もありましたが、今では、「図書館なので図書館らしく、図書館がやれることをやろう」と言う職員の姿を頼もしく感じているそうです。

文平館長
「目標は『親しみのある図書館』。子どもには明るく楽しく、高齢者にはゆっくりと大きな声で話せばいい。新しい図書館や広い図書館になるにはお金も時間もかかりますが、親しみのある図書館なら、資格の有無や経験に関わらず、一人ひとりの心がけで、実現できると思います。そういう図書館はきっと、『また来たい』と思ってもらえるはずですから」

この町では、図書館が、そして本が愛されている。そう感じたことを文平館長に伝えると、「皆さん、本は好きだと思いますよ」という言葉に続いて、こう返ってきました。「私自身、本の仕事をしてきたということもあって、本がボロボロで捨てられるとか、1円にもならないとか目の当たりにするととても悲しい。ボロボロでも本には役目があるし、役目があるものは価値があるのだから」

今はインターネットで調べれば、さまざまな情報を無料で見ることができる時代です。でも、だからこそ、価値のあるものを当然のように無償で得られると思っていてはいけないのかもしれません。
子どもの頃から、たくさんの本に触れる機会があること。町の中で、読みたい人の手へ本が渡っていくこと。本が身近にあることで、その価値に気付く人がきっと増えるはずです。

取材・文:山口敦子(タナカラ)
撮影:内山温那

須坂市立須坂図書館

市立須坂図書館
須坂市大字須坂803-1

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